INTERVIEW
ダンジョデニム 福川太郎さん

歩き旅でジーンズのまちを目指して辿り着いた倉敷、児島。

茨城県から移住され、下津井の町並み保存地区内でデニム製品の製造販売をされている、「ダンジョデニム」経営者の福川太郎さんに、移住のきっかけや移住を検討されている皆さんへのちょっとしたアドバイスをお聞きします。

福川さんは茨城県のご出身とお聞きしましたが、いつ頃移住され、移住をされる前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

倉敷市に移住をしたのは5年前です。最初の4年間は児島地区の市街地に住み、下津井に住み始めたのは約1年前からです。
仕事については、学校を卒業後、システムエンジニアからはじまり、学校の事務や音楽関係など、今とは全く違う仕事をしてきました。音楽関係ではCDを発売した経験があります。

以前ラジオでお聞かせいただいた「男女」という曲ですよね。とてもインパクトがあって耳に残る曲でした。この曲名がお店の名前になったんですね。
それで、なぜ下津井に来られたのですか?

高校時代に先輩が着ていたジージャンがかっこよくて、自分でも着てみたいと思いました。そこからジージャンが好きになり、図書館で本を借りて、家庭用のミシンを使って自分で縫ったりしていました。
まだ関東に住んでいる頃、ジーンズへの思いが強かったので、国産ジーンズ発祥の地である「児島」を目指しながら、自分が履いているジーンズがどれくらい色褪せるか試してみようと、旅をしたことがあります。その旅の過程でゲストハウスなどに泊まりながら、いろんな町を見ました。ずーっと歩くわけですが、そうするとその町ごとの風景がより身近に見えるんです。あ、この景色は地元の景色と似ているなあって感じで。
倉敷に到着すると、美観地区にあるゲストハウス「有鄰庵」に滞在しました。そこは県外の方も多く利用されていて、共同の調理場や談話スペースで、移住に関することやいろんな話をすることができました。
各地のゲストハウスに滞在して良かったのは、その場所の人や空気に触れられたことですかね。有隣庵に泊まったときも、それが心地良くて、この町に住んでもいいかなと思えたんです。きっとホテルや旅館に泊まっていたら、こういう感覚はなかったと思います。
そして、有隣庵で知り合った方に「ジーンズを作りたいなら児島に行ってごらん、児島にジーンズを勉強できる“ジーンズ縫製実践講座”があるから。」と紹介されました。翌年、その講座に参加してジーンズを1本自力で縫ったとき、これなら仕事としてやっていけるかもしれないと自信が持て、大好きなGジャンでオリジナルブランドを立ち上げることを決意しました。
事業の拠点をJR児島駅の近くにある産業振興センター内のインキュベーションに設けました。そこは月の家賃が2万円程度と、格安で1部屋を借りることができるうえ、工業用のミシンを24時間365日使用できます。しかも、2階には児島商工会議所があるので、創業について色々相談に乗ってくれるという恵まれた環境にあったのも良かったです。
創業するにあたり、作業場と住居が一緒の物件を探していたので、なかなか良い物件に巡り合わなかったのですが、下津井でちょうど希望に合う物件が見つかり、下津井に住もうと決めました。

今はお1人暮らしということですが、この建物の中で生活も仕事も全部されているのですか。

そうですね。私は自分で全部やりたいので、注文受付、デザイン、裁断、縫製、仕上げ、そして販売まで一貫して自分で行っています。

全てお1人でされるのは大変そうですね。分業制など検討されなかったのですか?

アパレルの世界では、裁断士、縫製、販売などパート毎に担当が分かれることがあるのですが、私は1人でしています。その方が全部見ることができますから。

でも、販売ということになれば難しいのではないでしょうか。

最初はほとんど注文がなくて大変でしたね。
今、販売の中心はネット販売です。店舗は午後の予約制で開けており、時々お客さまが来られます。
販路開拓という点では、商工会議所や倉敷市の協力もあり助かりました。児島はジーンズやデニムの町という大きな看板がありますから、ネットで検索したとき、店の名前とか検索に掛かる率が比較的高いんです。しかも、倉敷市がジーンズやデニムに関連した施策に力を入れていて、そのバックアップも大きかったですね。
反対に、児島でアパレル以外の創業を考えたら、もっと苦労したと思います。やはり、行政や地域が力を入れている分野・場所で創業する方がスムーズなことが多いです。その分自分の作品作りの時間が作れますから。

生活面ではどうでしょう。1日どのようにお過ごしですか?

食事面ではなるべく自炊をするようにしています。1人で仕事をするのは、体調管理がとても大切だと思っていて、コンビニ弁当やインスタントだけだと、どうも食後の集中力がなくなるので、できるだけ自炊をして健康管理には気をつけています。
1日の過ごし方は、午前中に型紙の作成やYouTubeの編集など、主にPCを使った作業をしています。午後からは商品の製作や店舗での接客をしたりしています。

YouTubeをされているのですね。それは収益性を考えての事でしょうか?

YouTubeは、児島地区の縫製業に携わる仲間と「縫製ばぁ」というアカウントを立ち上げ、縫製やアパレル、ミシンの動画を投稿しています。チャンネル登録者数も5万人を超え、収益化もできていますが、収益金の使い道は動画の企画費や仲間が集まるときの飲食代などに充てたりしています。そこで、いろんな情報交換をして仕事にも活かしています。

下津井という町で仕事をされていますが、地域の交流とかはありますか?

今、下津井シービレッジプロジェクトで地域おこしなどの活動に参加させていただいています。
ただ、まだ移住者が寄って集まれる場所が少ないんです。移住してきた人たちや移住を希望する人が交流できる場所がもっとあればいいなと思っています。
先ほどお話した、ゲストハウス「有鄰庵」には共同のキッチンと談話スペースがありました。そこで皆が一緒にご飯を作って食べたり、利用者同士の会話が生まれたりして活気がありました。談話スペースで先輩移住者のリアルな話を聞けたことが、私が移住を決意するひとつのきっかけにもなったので、お試し住宅にも、そのようなキッチン付きのコミュニティスペースがあればいいなと思っています。

最後にこれから移住を考えられている方にアドバイスをお願いします。

移住+起業を検討するには、その地域が何に力を入れているのかを調査して選んだほうが良いと思います。私の場合は倉敷市の地場産業である繊維、特にデニムでしたので、倉敷市や商工会議所のバックアップがあり、設備投資などの補助金も受けられましたし、広告宣伝などの販路拡大も支援していただけました。これがまったく違う業種だったら、苦労はもっと多かったかもしれません。
そして、移住する前にゲストハウスなどに泊まって、その土地の空気や地域の実態を体感しておくことが良いと思います。ホテルだとお客様扱いされるので、住民目線での体験がしにくいです。
全国のいろんな町を歩いてみると分かるのですが、児島という町は比較的何でもそろっている町だなと実感しています。生活の不便さは特に感じていません。そういった町の雰囲気も実際に生活してみないと分からないと思いますので、事前に体験しておくといいですね。
そして、仲間づくりです。個人事業主だからこそ1人ではなく仲間を作っていくということが大切だと思います。
最後に、先ほどもお話しましたが、自営業は健康管理が特に大事なので、起業をお考えの方は特に、お身体に気をつけてもらいたいです。